夢創作とは?

はじめに


 まずこの項は夢創作の定義を定めようとするものではないことと、編纂者の偏見に基づくものであることを断っておく。

 夢創作の定義というのは紛糾しがちな話題である。夢ジャンルには様々な需要を持っているものが同居しており、一つの二次創作作品が全く別の三通りくらいの需要で楽しまれていることすら珍しくない。当事者たちに最も好まれている定義が「作者が夢と思ったら夢」というトートロジーであるのも、それが一番争いを減らせるからである。

 だがそれでは外部に対して説明ができないので、この項で夢ジャンル外の方への解説をする。一言でまとめると取りこぼしの多い世界なので文章が長くなってしまった。申し訳ない。ちなみに編纂者は自己投影原理主義である。名前変換主義者ではない。この言葉で編纂者のスタンスが察せる方にはおそらくこの解説は必要ないのだが一応書いておく。


定義


 この夢創作史で主に扱う二次創作夢創作には、おおよそ2つの要素がある。

①夢創作とは、原作に登場しないキャラクター(原作に登場することもある)が、原作のキャラクターと何らかの関係を築く(築かないこともある)創作である

②夢創作とは、自己投影が何らかの形で絡む創作である

 順番に解説していく。


①夢創作とは、原作に登場しないキャラクターが、原作のキャラクターと何らかの関係を築く創作である

 長いので前半と後半で切ろう。まず前半の『原作に登場しないキャラクター(原作に登場することもある)』について。

 この原作に登場しないキャラクターこそが、いわゆる夢主である。夢主人公の略であるが、ネット発祥用語なので読みは統一されていない。夢主以外の呼称も存在するが、ここでは夢主で統一する。

 夢主は読者/作者のアバターとなることを想定されているキャラクターであり、まさに主人公として詳細に過去や能力を設定されているケースもあれば、単なる視点カメラとして必要最低限の身分しか与えられていないケースもある。女性であることが多いとされているが、男性であることもあるし動物や無機物であることすらある。需要と物語に必要などんな存在にもなれるのが夢主である。

 (原作に登場することもある)については、概ね2つのパターンがある。


a. ゲームにおけるプレイヤーキャラクターを夢主としている

 具体例としては『刀剣乱舞』の審神者、『アイドルマスターシリーズ』のプロデューサー、『ポケットモンスターシリーズ』の主人公など。
 確かに原作に登場するキャラクターであるのだが、同時にプレイヤーのアバターでもあるゲーム主人公を夢主に据えた夢創作は多い。“あなた”であるゲーム主人公がそのまま夢創作でも“あなた”になるのはごく自然な流れだ。作品によって主人公の外見設定や作中から伺い知れる人格設定の多寡は千差万別だが、更に設定をカスタマイズしたりしなかったりして夢主として扱うことがある。
 しかしゲーム主人公が絡む創作が即ち夢創作というわけではない。ゲーム主人公を原作キャラとして扱う派閥も大きいので、このあたりが「作者が夢と思ったら夢」といわれる所以である。②の定義も絡めて柔軟な対応が必要となる。

b. “成り代わり”ジャンルである

 つまり「転生したら悪役令嬢だった」の二次創作版である。主人公が原作キャラクターに成り代わっているものだ。基本的にweb小説の文化と夢創作の文化は距離が近い。
 夢主が原作キャラクターになったので、“原作に登場しないキャラクター”は登場しない。狭義では登場しているだろうがこういうケースもあるので紹介した。ちなみに成り代わり先はメインキャラの場合もあるが、名前の与えられていない“原作キャラクターの母親”あたりも見かける。母親のような居るのは確実だが全く情報がない存在の場合、成り代わりではなく通常の夢主とするケースも多い。

 次に後半部分の『原作のキャラクターと何らかの関係を築く(築かないこともある)』について。

 まずカッコの中を無視して、何らかの関係というのは広い言葉である。恋愛関係も当然含まれるが、原作キャラとその他の関係を築くものも夢創作である。たとえば友だちになったり、兄弟姉妹になったり、はたまた敵対したり。動物の夢主だったりするとペットになったりもする。夢創作と原作キャラカップリングは対立項ではないので、原作キャラCPと同時存在する夢創作も存在する。推しカプの成立を助けたり、推しカプの隣人になったり、もしくは推しカプの娘になったりする。

 (築かないこともある)というのは概ね世界観夢と呼ばれるものである。たとえば『ハリー・ポッターシリーズ』や『ポケットモンスターシリーズ』のものが有名で、原作世界観のなかで暮らしたいというだけの欲求に応えるものも多い。


②夢創作とは、自己投影が何らかの形で絡む創作である

 この場合の自己投影は心理学的な投射のことを指さない。「キャラクターと自分を重ねる」くらいの俗な意味である。作者/読者による夢主への自己投影という要素が、夢小説とは切っても切れない。

 夢ジャンルには様々な需要を持つものがいるので、“夢主≠自分”として作者が自己投影を否定しているケースもある。だがその場合も夢創作ジャンルであるので、読者の自己投影は歓迎/許容していることが大半だろう。読者側も自己投影をして読まないと公言するものも多く、自己投影はあくまでオプション選択肢となる。

 夢創作のアイデンティティが自己投影と癒着関係にあるのに、自己投影という言葉が悪口に使われる文脈が一部に存在するため、夢創作は悪口を言われてきた歴史がある。

 夢創作を語る上で必須の名前変換機能も、基本的には自己投影のための機能である。名前変換機能はスクリプトを使って夢主の名前などを自分好みに変換できる機能で、一時期までは夢小説というラベルにおいて必須とされていた。しかし現在はその風潮は薄れてきているようである。

 編纂者個人の考察としては、2010年代以降の二次創作のメイン発表箇所であるpixivに長く名前変換機能のなかったこと、そもそも名前変換の著しく難しいイラストや本での発表も増えたことが原因にあるように思える。夢主に固有の異能力やビジュアルが存在することもあるのに、名前だけは固定して設定していけないというのも妙な話であるのかもしれない。

 夢主の設定の多寡と自己投影についても、たびたび話題になる。余分な設定がついていては自己投影できないという者もいれば、設定がついていることで逆にスムーズに感情移入できるという者もいるので、基本的には好みの問題になる。
 そもそもリアルの我々自身もそれなりに設定がついており、たとえば関西弁話者の書いた“ごく普通の女の子”は他地域在住者からすれば“関西弁キャラ”になる。自己というものを扱う以上、とても個人的な話題になるのだ。
 また夢主に設定があることの恩恵として、未成年キャラクターと恋愛したい成人読者が、夢主の設定を未成年とすることで対等な恋愛ができること等がある。

夢創作黎明史

プレ夢創作史


1999年5月 「おうさまのホームページ」にてName Exchange System公開

→「おうさまのホームページ」のアーカイブ
 おそらくは夢小説以前の名前変換プログラム。開発者の方が協力していた某創作系ページのために開発されたCGIとのことで、登場人物の名前を入力した名前に変換することができる。名前変換の先駆けであるが、某創作系ページというのが何を指しているのかは不明。


1999年10月 『Harlem Beat ~You're The One~』発売

→『Harlem Beat ~You're The One~』公式サイトのアーカイブ
→「乙女ゲームまとめ@ウィキ」の『Harlem Beat ~You're The One~』の記事
 少年漫画原作のドラマティック青春シミュレーション。主人公を原作主人公、男マネージャー、女マネージャーから選ぶことができ、エンドによっては恋愛要素が含まれていた。『ハーレムビート』は週刊少年マガジンで1994年に連載開始されたスポーツ漫画で、少年漫画原作ゲームで恋愛要素が含まれるゲームは確認している限りではこれが初。


二十世紀の夢小説


 当サイトでは夢小説(ドリーム小説)発祥をLLSならび2000年としているが、1990年代には夢小説はなかったのだろうか?

 これについては90年代の夢小説を探してこなくてはならないのだが、いかんせん90年代の個人サイトはwebアーカイブにもなかなか残存しないので捜索が難航を極めている。

 夢小説=ドリー夢小説=ドリーム小説を名乗るコンテンツについては、やはり00年のLLS発祥と見て間違いないように感じる。たとえばこちらはジャンプ系男女カップリングの検索サイトで、99年9月に開設されている。
→ジャンプ系・男女カップリング検索&リンク集「恋愛ガーデン」の検索ページ
 このサイトにドリーム小説のカテゴリができるのは01年11月で、同年8月にはまだドリーム小説のカテゴリが存在しない。もしドリーム小説が90年代から存在していたなら、この反映時期には疑問が生じる。

 また、名前変換スクリプトを利用した小説という初期の夢小説定義についても、99年開設の『SLAM DUNK』男女創作サイト(個人サイトのためリンク自重)が名前変換システム普及は2001年初夏であると書いている。これは01年3月のDreamMakerのことであると思われ、これ以前には容易に利用可能な名前変換スクリプトは知られていなかったようだ。

 とはいえ、夢小説という言葉がなくても人の心に同じ形をしたものが発生することはある。上記の『SLAM DUNK』男女創作サイトはオリジナルキャラクターならびリクエスト者と原作キャラクターの小説を展示している。そして、名前変換システムが普及する前に書いたものだから名前変換がついていないと書き残してくれている。
 自分たちの夢創作の芽生えをインターネットの利用以前とする夢創作愛好家たちも多いし、夢小説という言葉が存在する前から(もしかしたら物語が発生した太古の昔から)夢創作の概念自体は存在していたと思われる。

考察

なぜ夢作品がpixivランキングを埋めるのか?


 夢読者の雑食性が現れている、という説を立てたい。
 自分の推しではないキャラの夢作品も読むという夢読者は体感多いが、自分の推しカプではないカップリングを読むBL読者は少ないのではないか。
 たとえばアンソロジーが出る際、BLCPの場合カップリング縛りか受け縛りが大半だが、夢の場合ジャンルのみ指定でキャラクター自由というのも珍しくない。
 ジャンルBL総読者のうち過半数がABを読むということはよっぽどの寡占カプでない限りないだろうが、ジャンル夢総読者のうち過半数がA夢を読むということは十分ありえる。
 つまり夢総読者とBL総読者が同じ程度いるとした場合、特定の1作においては夢作品のほうが実質読者数が多く、ブクマがつきやすく、ランキングに昇りやすいのではないだろうか。
 この仮説が正しい場合、BL作品はカップリング名のタグからのアクセスが最も多く、夢作品はジャンル夢のタグからのアクセスが最も多くなると思われる。